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いけばな随想
diary

夜道の記憶 250525

2025/5/25

 道は道でも夜道である。東京暮らしのとき、日吉で台風による孤立に陥った。友人が少なかった私は一緒に連れ帰ってくれとお願いする相手が見つからず、運休した東急東横線を恨みながら風雨の吹きすさぶ夜道を1人歩き始めたのだった。
 世田谷区上野毛まで何キロあるかはわからなかったが、淋しい自分をじっと抱えているよりは、目的を持って動く方が気も紛れると思った。当時のセブンイレブンは文字通り23時には閉まったし、携帯電話も世の中になかった。荒天の中、多摩川を越える橋を見つけるのに困ったり、田園調布の蜘蛛の巣状の道に引っ掛かったり、等々力渓谷で怖い思いをしたりしながら、ほとんど誰にも会わず歩いた。不安の度合いが大きくなると、暗闇に彷徨いながら正気を失う。アパートに辿り着いた記憶がほとんどない。
 夜のいけばなを、人はわざわざ見ようとはしない。目を凝らしても、その細部がくっきり見えないからだ。しかし、夜の景色が人に影響を与えるように、夜のいけばなも人の心を動かす。夜に紛れた花に惑わされることで、人は人生に必要な不安な夜と友だちになれる。

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