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いけばな随想
diary

奥義 240916

2024/9/18

むかし何かで読んだことがある。免許皆伝となった者が、師匠から巻物の奥義書をもらう。装丁も立派で、さぞかし多くの秘技秘術がまとめられているだろうと期待して開くと、中は白紙であったと……。

むかしの師匠は、教え惜しみを常套的に行っていた。質問されても「お前には、まだまだ早い」とすげない。弟子が疑問に思うような、一見関係ないような訓練を課す。弟子は不信に陥るかもしれないが、師匠にしてみれば最も効果的な、段階的な方法を検討し尽くしている。

秘術というのは、秘しているわけではない。あるステージに至らない者には見えないだけである。より高次の段階に至った弟子には、「秘すれば花」が効果を持つ。師匠が秘した花を、弟子はもう探し当てる技量をモノにしているからだ。教えられなくても、見つけられる。

さて、奥義書は白紙である。いけばなの世界にも、流派によって「奥伝」と呼ばれる書物がある。何かが記されていれば、それは奥義書の一歩手前の教えだ。奥義を身に付けた者は、師匠の教えそのものではなく、師匠を一歩超えた何かを教えられる境地に至っている。

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