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いけばな随想
diary

より時間をかけて 240211

2024/2/11

私は1960~70年代に少年期を過ごした。高度成長期の真っ只中では何事もより早くという風潮で、身の回りは様々な競争に明け暮れていた。

一方で茶華道を習う人も多く、教室の看板が至る所に見受けられた。私も8~15歳は書道教室に通った。縁側に吊るした鳥籠の一羽の黄色いカナリヤが、庭の松の木に向かって甲高く鳴いていた。襖を隔てた隣の座敷は琴の教室で、爪弾く音はいつも聞こえていたが、どんな人たちが習っているのか声は聞こえないし、ついに一度も顔を見たことがない。

街なかにありながら、喧騒から隔てられ香を焚きしめたその屋敷は、思えば少年の私にとって竜宮城のように別世界だった。当時は、すべてがより早く動いていたわけではない。反対側でちゃんと釣り合いをとり、しっかり時間をかけるというバランス感覚も世間に働いていたのではなかろうか。

しかし、その教室を一歩出ると、2,3軒隣に「科学教材」という店があり、いつも目新しい教材や玩具を扱っていたので、帰りに必ず立ち寄り、ミニチュアカメラや素敵な星座盤などに目が眩んで、小遣いをはたいていた。

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