名前のない木 250405
2025/4/5
昨日のいけばなの主役は流木2本だ。その存在感の出方は成功でもあり、失敗でもあった。というのは、会場の他の人たちから「いい木(ボク)ですねえ」と頻繁に褒められたからだ。作品についての興味よりも流木に対する関心が上回ったというのが、私にとっては皮肉過ぎる出来事だったのである。
別の人からは「その流木は何の木ですか」「その流木はどこで手に入れられたのですか」とも聞かれた。きっと彼ら流木にも名前の付いた若い時代があった。それが枯れるか土石流に巻き込まれるかして谷に落ち、大雨と共にもみくちゃにされて流され、土砂に埋もれたまま数年を過ごし、何度かの大水で表土が削られてまた地表に顔を出したのだ(という想像)。
そうして、表皮が剥ぎ取られて堅い芯を残したその流木は、ついに名前を失って河原の隅に横たわっていたのを拾われたということだ。名前はなくなったが、出身は石手川上流の“木(ボク)”である。
私もいずれ名前をなくす。そうして誰かが発見してくれた時、愛媛県出身の“ヒト”だったんですねと呼ばれて、時間の流れの川岸に横たわっている。