屋根の曲線 241129
2024/11/29
私は東南アジアのパゴダ(ストゥーバ)のような、道後温泉の湯玉のような、タマネギに似た屋根の曲線が好きだ。これは、てっぺんに向かって閉じていく曲線である。逆に下に向かって開いていく形の、寺社の屋根の曲線にも美しさを感じる。この曲線は「軒反り(のきぞり)」と呼ばれる。
寺社木造建築のこの屋根の曲線は、大工が木材をうまく加工し組み上げて造る曲線で、こじつければ、華道家がつくるいけばなの曲線と感覚的には似ているところがあると直感した。ただし、花材の1本で曲線を表す華道家の仕事は、宮大工の木材を無数に組んで曲線を出す作業の比ではない。
軒反りは「下に向かって開いていく」と書いたが、正確には、軒先はやや上に反っているので、屋根の勾配は下降しつつ最後には天に向かって開いていく。この、落ちつつ舞い上がる微妙な曲線を、いけばなの枝先に表せるかどうかというのが、私がI先生から言葉ではなく仕草から受けた薫陶である。
複雑だから奥深く感じるというのは錯覚で、シンプルなのに奥深いのが本物であるという、その代表が「軒反り」ではないだろうか。