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いけばな随想
diary

抽象へのジャンプ 240513

2024/5/15

「松をいけて、松に見えたらダメでしょう」

これが草月のいけばなの目指すところで、私は何度も反芻してきた。

この一見禅問答のようなテーゼは、改めて説明するまでもないとは思うが、敢えて嚙み砕いておく。「グッチを持って、そのバッグだけが浮いて見えたら悲しいでしょう」というのに通じる。トータルコーディネートしたその人の全体が、グッチのバッグ1つに負けているケースだ。

料理にも通じる。「母ちゃん、今日の肉じゃが、この肉すごく美味いね」という誉め言葉を息子からもらった母親は、「わかった? 今日の肉は奮発して高い肉の小間切れだからねー」と言いながら、心の中では「肉じゃなくて、肉じゃがを誉めてほしいんだけどさ」

とはいえ、難しいのは難しいのである。旨い刺身を食べて「うわあ! このアナゴってフグみたいに旨いじゃん!」とか、函館で寿司食べて「うーん、このウニ溶けそー、サイコー!」とか喜んでいるのは、それはそれで刺身とか寿司とかいう料理なのではあるが、本人にはアナゴやウニにしか見えていない。

2日前にいけた芍薬が、芍薬にしか見えない悲しさよ。

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