汀州Japanlogo 汀州Japanlogo

いけばな随想
diary

環境設計 241229

2024/12/29

 1軒の小間物屋が、山間の村はずれの四ツ辻に建った。それまで村の集落から大きい町まで買い出しに出掛けていた人たちの流れが、そこで時々ひと休みするようになる。小間物屋は、饅頭も売り始めた。人々の流れがその店で滞留することも増えた。そういう店が日本全国にあった。
 ところが、道が拡幅され長距離路線バスが運行するようになり、トンネルが掘られて大きい街に行きやすくなってマイカーを持つ家も増えると、その店で買物するのは腰の曲がったおばあちゃんばかりになってしまった。店は昭和時代の遺物となって、平成の頃にはほとんどなくなってしまった。
 日本全国にまんべんなく分布していた小さな町や村は、令和の時代を迎えてますます小さくしぼみ、店ばかりではなく集落から人が消えてしまった。いまの日本は、大都市と、周辺の比較的大きい町と、あとは荒れた山や海辺の風景から成っている。
 あの1軒の小間物屋は、いけばなという習い事の盛衰を象徴しているように思える。いけばなは、それ自体がひとり独立して生きられるものではない。その周辺環境によって生かされるものだ。

講師紹介