汀州Japanlogo 汀州Japanlogo

いけばな随想
diary

自己の一掃 240731

2024/7/31

彫刻家・河野甲の「大気への托身」という作品を持っている。4枚のトンボの翅が生えた男が、風の吹く宙空に身を投げ出している。その風は地上を吹く風とは違い、広大な上空を流れる偏西風のような強大な流れである。一旦そんな潮流に乗ってしまうと、もう個の意志や力ではどうにもできない。私は海のカヌーで遭難して、それを実体験したことがある。

そうなると「SOS! 私は玉井!」と叫ぶことも虚しく、私を取り巻く空間が一気に地球的な広がりを持ち、その大空間から眺めた自分は、もう玉井であるか流木であるかわからない心持ちで、恐怖も消えて海と自分が一体感の中に溶けていった。

勅使河原蒼風の言葉では「いけたら、花は、人になるのだ」が、逆はどうだろう。「いけたら、人は、花になる」ことは? 何かに身を任す托身のように、何かに心を託す托心は?

「つくり手の心を託されたいけばな」というのはロマンチック過ぎるイメージかもしれないし、もし、自分の狭く浅い思いが作品の足を引っ張っているのならば、思いを花に託した後は自分を消滅させて、花の舞いに任せたいものである。

講師紹介