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いけばな随想
diary

面白がる才能 231110

2023/11/10

 長く懇意にしている友人を、何十年ぶりかに再会した知人の店に連れて行きました。知人が調理のため向こうに行った隙に、友人は言いました。
「この店の人、楽しそうに仕事をしているのがわかって、なんか嬉しいわぁ」
「どこを見て、楽しそうって、わかったん?」
「見んでもわかるわー。楽しく仕事してない店に行くと、それはそれでわかるやろぉ?」
「わかるー!」
わかるんですねー。ホント恐い恐い。これは、何事についても言えることで、家庭生活も同じだなーと思い当って反省すること、しきりです。楽しさも苦しさも、伝染します。
 花卉農家の仕事ぶりを思い浮かべると、出荷までの長い月日をどんな気持ちで過ごしているのか、他人事ながら気になります。私が花を陰気に扱っていると、いけばなの生徒さんにはたちまちそれが伝わるでしょう。結果的に、花卉農家さんの仕事をも暗いものにしてしまいます。
 先日、私の生徒さんが、グロリオーサの蕾と花を見比べて、
「花とガクは、咲くとき後ろに反り返るんですねー、面白~い!」
何でもない毎日の些細な物事を面白がれると、日々幸せ者です。

大抵うまくいかない 231109

2023/11/10

 Bar CON ALMA に“はないけ”をする日でした。花店で偶然見かけたシースターファン(シダの仲間)の細かい線がかわいくて、衝動買いしてbarに行きました。カウンターでいつものようにいけて、さあ定位置に置こうとしたとき、シースターファンが繊細過ぎて、barの暗い空間では全く見えない!
 私がいける段取りは、花材と花器と空間とを眺めて、頭の中で大雑把なイメージ‹その1›を思い浮かべます。目で観察しながら、また手で触りながら長さや向きなどを花材と相談。花器に挿してみて、イメージ‹その1›には無理があったことを知り、イメージ‹その2›を出す。同じ繰り返しで‹その3›‹その4›……と進み、便宜的に完成としますが、何となく形になってくれたという覚束ない偶然の感じ。
 今日のように明らかにうまくいかないときは、ふりだしに戻ります。所詮、人間の頭で考えることには無理があるんです。花材のサイズや性質は標準化されないため、建築やインダストリアルデザインのように設計図を引くこともできません。
 目と手で対話しながらの作業は、パッと一瞬で出来上がったりしません。

好きと嫌い 231108

2023/11/10

 私はジャズやロックが好きで、特に好きな曲はどんなTPOで聞いても、いつもいつでも聞き惚れます。
 私は日本酒とウイスキーも好きですが、昨日美味い! と感じたウイスキーが今日不味いと感じることがあります。少し間を置いて数日後に飲んでみると、やはり不味かったりします。食べ物では焼きそばUFOが昔から好きなのですが、3回に1回は不味いです。飲食物に対する好き嫌いは、なぜか安定を欠いています。
 いけばなについては、心に残る他人の作品がいくつかあって、いつ思い出しても良いと思うし、好きだという評価は変わりません。一方、自分の作品は、たいてい至らぬ点を後になって見つけてしまい、良かったはずのものも良くないものになってしまいます。自分の作品に対しては、好き嫌いよりも良し悪しで評価してしまうのかもしれません。
 自分と自分の作品が大好きだと言えるようになったら、どんなにか強いだろうと思います。また、良し悪しの評価も、他人に厳しく自分に甘かったら、どんなにか楽だろうと思います。好きでやっているから、どうでもいいことではありますが。

お道具と箱 231107

2023/11/7

 新車のシートに掛けられた汚れ防止の薄いビニールカバーや、ブレーキペダルの汚れ防止シールがあります。家電等のアクリル部分などにも、よく引っ掻きキズ防止の透明シールが貼ってあります。私は、そういう防護材的なものは、使う前にすべて取り去りますが、世の中には、それが粘着力を失ったり擦れてめくれたり破れたりするまで、大事に付いたままにしておく人もいます。
 いけばなの諸先生方のお宅へお邪魔した際に、部屋の隅の陰や縁側の突き当りの陰に桐箱がひっそり、あるいは積み重なっていることがあります。「あれは玉井さん、ちゃんと取っておくもんですよ」とわざわざ言ってくださる方がいらっしゃいますが、私は邪魔くさくて、ほとんど捨ててしまいます。だから、どこのどなたが作られた花器か、わからなくなっているものもあります。掛軸や香炉などの桐箱も捨てるので、「なんてもったいないことを!」と、たしなめられます。
 外箱に気のない私は、しかし蓋物が大好きで、木や陶磁の蓋のある入れ物を眺めては、そこに神様や宝物が入ってくれないかと心待ちにしているのです。

タイミング 231106

2023/11/7

 つぼみが好きです。けれども、満開の花もやはり捨てがたい……。
 いけばなは、時間とともに変化する花材を使うので、固定された状態を表現できません。変化することは、生きている証だと思います。死んでしまったものは変化を止めることになるし、もともと生きていないものは変化の兆しを感じさせません。
 生きた花材を使うときの問題は、どのタイミングでいけて、どのタイミングをお仕舞いとして片付けるかです。店舗にいけさせて頂くときは、たいていつぼみの状態でいけて数日後に花開くように念じ、枯れる前にいけ替えるようにします。予定以上に長持ちしてくれるとホッとしますが、開花が早く萎れるのも早いときは、慌てていけ替えに行かないといけません。
 私の事情をご存じの花屋さんとは、「1週間持つかなあ、どうかなあ」と言いながら花材を選びますが、何より飾らせていただいた店舗の方の水換えのほうが花の寿命を左右します。
 いけ終わった花材を、片付けてから枯らして再び使ったり、はじめから枯らして使うこともあります。
 満開の花も好きですが、枯れたものも捨てがたいのです。

講師の事