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いけばな随想
diary

美意識と生活 231021

2023/10/21

 大量生産・大量消費の高度成長期を生きてきた私は、仕事も生活も慌ただしく、いろいろ雑で汚かったと振り返ります。1980年代は生活文化という言葉が盛んに使われていて、デザイン出版会社で制作ディレクターをしていた私は、それを高めようという愛媛県発注の仕事などでちょこちょこ稼がせてもらいました。
 生活文化とは言っても、普段の生活はたいてい普段着なので、さほど美しい文化が現出するわけもありません。現役時代の私は、現実過ぎる毎日に進んで忙殺されていて、美意識を膨らませることができませんでした。日常的に徹底して美しさを追求するのはとても無理だと思っていました。
 いま準隠居生活に入り、五感も頭も空きができたので、もう少し美意識に忠実でありたいと思い始めています。「文化」というと純粋に芸術などに親しむことを思い浮かべますが、「生活」というとスポーツや旅行、読書などを娯楽的に思いうかべることができます。そんなとき、「生活文化」という中間的な言葉にすごくフィットする感じがするのがいけばなじゃないかしらん? と含み笑いをしてしまうのでした。

素敵な遭難 231020

2023/10/20

 遭難することは、誰もが避けたい。だから、遭難しないように事前調査と準備をします。私の自慢は、若気の至りで遭難経験が2度あることです。
 ある時、重信川の源流点を求めて、10人ばかりで東三方ヶ森という山へ沢伝いに登りました。天候が急変して霧に巻かれ、計画を諦めて方角だけを頼りに谷と尾根を越えてひたすら北へ歩き、幸運にも設置アンテナをチェックしに来たアマチュア無線の人たちに日没前に林道で出くわし、車で救出されました。
 またある時、愛南町の鹿島で仲間に落ち合うため、単身カヌーを漕いで渡りましたが、天候悪化のニュースで仲間は既に島を脱出していました。即座に私も後を追いましたが、高波と追い風に煽られて転覆・漂流しました。強運にも、沖で漁船を救助した通りがかりの船に救い上げられました。
 用心深く暮らしていると、あまり遭難しません。いけばなでは、用心しても、花が落ちたり茎を切り過ぎたり枝を折ってしまったりと、一見とりかえしのつかない失敗を繰り返しますが、どんな場合でもリカバリーできるという経験を何度も積めるのが素晴らしいのです。

面白がること 231019

2023/10/19

 先般、全国高校生花いけバトルの四国大会を見に行きました。愛媛からエントリーした4校を応援しに行ったのだけど、もう、全部の学校が素晴らしかったです。
「華道部でもないのに、何で出場しようと思ったの?」「面白そうだったからです!」。このイベントが、意識的に花に触れる最初の機会だったという生徒さんには仰天しました。彼は、まさに面白がれることを見つけたのです! バトルだというのに、勝ち負け以上に、自分が全力アタックできるかどうかに何のてらいもなくチャレンジしたのです。
 私などは、いけばなの昇格試験を小さな会場で受けるのにもいろいろ考えて二の足を踏むのに、彼らは成果を得る可能性が高いとか低いとか、全く問題視していませんでした。始める前から結果のことで気を揉んでいないのです。ああ、あんな少年に私もなっていたかった!
 私は、自分が設定した幸せに届こうと、もがきもがいて人生を過ごしてきました。結果を問わず面白がれるのは、まさしく才能です。華道をはじめ「〇〇道」は、届かないからこそ面白がって追い続けられる土俵なのかもしれません。

いける距離 231018

2023/10/18

 私は海(ともかく水辺が)が大好きで、雅号は汀州です。汀の字は私の先生の雅号から1文字頂きました。私のお弟子さんにも、師範になると汀の字を使った雅号を名乗ってもらい、水辺の領土を広げます。
 夏の海辺でキャンプをすると、真昼の砂浜の浅い所では白い網目の波模様や小魚の群れ。夜、テントから波打際を見ると砕ける小波に煌めく夜光虫。翌朝、コーヒー片手に水平線で溶け合う海と空を見るのも素敵だし、帰りがけに、半島の小道から夕日に染まる雲と海のコントラストを眺めるのも綺麗。海は、あらゆる距離から常に魅力的です。
 さて、いけばなを見る距離は人それぞれですが、屋内作品だと0.5~2m、屋外の大作だと1~10mくらいでしょうか。私は、人に見て欲しい距離を勝手に設定していけています。これが私の「いけばなをいける距離」です。
 しかし、その距離が、記録で残す撮影にふさわしい距離かというと、必ずしもそうでないところに悩みが尽きません。近過ぎると空間全体が見えないし、遠過ぎるとディテール(葉の模様や花の色の陰影など)が見えなくなってしまうのでした。

描きいけ(かきいけ) 231017

2023/10/17

 いけばなの取り組み方には、3つのパターンがあります。(1)完成予想図を頭に描いてから花材を用意して着手。(2)与えられた花材を眺めつつ完成予想図を頭に描いて着手。(3)完成をあまりイメージせず気ままに花材と戯れつつ進める。
 料理人も、普通はメニューに従って(1)の要領で食材を調達しますが、私の知る小松要さんというシェフは、かつて漁師さんや農家さんに「旬のものを今日は3kg持ってきて~」という調子で発注し、やってきた食材を並べつつ(2)の要領でその日のディナーコースを考えておられました。家庭で日々の料理を作る人も、冷蔵庫の食材とにらめっこしながら(2)の要領で献立を考えることがあると思います。
 私がお稽古用の花材を仕入れる時は、生徒さんの顔とその日のカリキュラムを思い浮かべつつ、花店に並んだ花木の中から直感的に相性のいい花材を仕入れます。生徒さんは(2)か(3)のパターンで取り組みますが、(3)のパターンで取り組んで終わりなく楽しんでしまう人のために、草月流には「描きいけ」というカリキュラムがあって、完成予想図を紙に描いてからいけ始める(2)を練習します。

講師の事